<バズバス(BazBus)で周遊する>
南アフリカのMust-doといえばバズバス(BazBus)です。バズバスとは南アフリカ海岸沿いに点在するバックパッカーホステルを繋ぐ相乗りバスのことで、主な停車地としてはケープタウン、ポートエリザベス、ダーバン、ヨハネスブルグを横断するルートにあります。
タイムテーブルでいうと、
ポートエリザベス→ダーバン(06:45→22:30)
ダーバン→ヨハネスブルグ(07:30→18:00)
というスケジュール感で最短3日間で南アフリカの南側を横断できることになります。
このほか、ケープタウン市内観光やサファリツアーといった1dayから6dayまでのツアーもラインアップされており、南アフリカの周遊はこのバスで全て網羅されるほどの充実っぷりです。
もちろん、レンタカーを手配して自分で移動するという手もなくはないですが、南アフリカでは「赤信号は止まるな」といわれるくらい治安が悪く、人気のない道で車を止めると襲撃されるという話もあります。電車は電車で夜道に何が起こるかわかりません。だからこそ、このようなバズバスが流行っているのではないかと考えます。
ただ、バズバスはバスというよりはワゴン車であり、プライベート空間を保って優雅に過ごせる移動手段ではありません。というよりは、相席になった旅行者と世間話をしながら和気藹々と旅する「あいのり」のような乗り物です。そんな体験に興味が湧いたのならば、バズバスを試さない手はありません。
実際、私はこのバズバスを2回体験しました。
最初の1回目はケープタウンからサーフィンの聖地であるジェフリーズベイに移動するためです。
ちょうどそれはサーフィンの世界王者であるミック・ファニングが試合中にサメに襲われる数ヶ月前の頃でしたが、私にはいつかジェフリーズベイでサーフィンをしてみたいという夢がありました。
Shark Attacks Mick Fanning at the J-Bay Open 2015
ケープタウンのバックパッカーホステル(Amber tree lodge)に滞在していた私は早朝の宿前でピックアップされ、遠い目的地へ向かいます。予定だと夜の22時頃に到着する見込みです。サーフボードを持参している私はワゴン車の牽引ボックスに荷を預けて、ぼんやりと車窓を眺めていました。
なにか車内で自己紹介的なイベントがあるのかなと思っていましたが、皆、それぞれ自分の世界を楽しんでいるようでした。乗車客はほぼ欧米系旅行者で一人旅だったりカップル旅だったり様々です。
ジェフリーズベイはポートエリザベスの一つ手前の停車地ですが、ここに到着するまでに10箇所ほどの街に停車することになります。この各停車地で食事やトイレを済ませるわけです。
お昼になると大きなショッピングモールに停車して休憩タイムになりました。皆、好き好きに食事に出かけます。私はとりあえずマクドナルドで昼食を取ることにしましたが、そこにいた中国人旅行者たちから「イエロー、イエロー」と呼ばれちょっと困惑しました。悪気はないのでしょう。こんな辺鄙な街でアジア人を見つけたら声もかけたくなります。
それから、車中に戻り、車が動いた時、誰かがいないということでちょっと車内がざわつきました。ドライバーはあっちかこっちかとキョロキョロしながら運転しています。すると、ショッピングモールの出入口からアメリカ人の女の子二人が慌てて駆け寄って来ました。ビーチサンダルでは走れないと思ったのか、裸足で車を追いかけており、ちょっと逞しいなと感心してしまいました。
それから幹線道路に入ると雄大な自然が永遠と車窓を流れ、時折、見ず知らずの街のバックパッカーホステルにバズバスが泊まります。そこで旅人は降りて、また新しい旅人が加わります。なんだか人生の縮図を見ているようで私はその度にバスを降りてタバコを一服していました。
ジェフリーズベイに到着したのは予定どおり22時頃でした。私の他にドイツ人の女の子2人も降りてHard Rock Backpackersというバックパッカーホステルに入りました。
しかし、このホステルはシーズンオフのようで宿泊客がほとんどいません。そして、夜は店がしまっているので私は空腹でした。そんな状況を見かねてか、宿のブラジル人スタッフがペンネをこっそりくれたので、私は一人で茹でて空腹を満たしました。
それから翌朝になるとあるスイス人サーファーと知り合いました。彼はレンタカーを使って南アフリカを転々と旅しており、移動には事欠かないと思い、私は彼とサーフィンに出かけることにしました。
ジェフリーズベイといってもメジャーポイントからマイナーポイントまでサーフィンできる場所は様々です。この日はあいにく強風でどこも波はぐちゃぐちゃ。結局、私は彼と昼食をとり、海岸を散歩して過ごしました。
「こんなコンディションだけどせっかくだから海入れば?」
「君が入るなら」
「いやいや、どうぞどうぞ」
というダチョウ倶楽部的な展開もありましたが、我々はしんみりとジェフリーズベイを眺めていました。
そして、彼はおもむろにスマホの動画を回して自分を撮ってくれてと頼みます。なんのことやらと思い、スマホを向けるとジェフリーズベイを背景に恋人へのメッセージを伝えていました。そんな彼の想いを手助けできて私はちょっと嬉しい気分になりました。
それから夕方、彼のチェックアウトを見送ると、私は誰もいない真っ暗な部屋で寝転んでいました。するとドアが急に開き、何者?
と思ったら、昨日一緒にチェックインしたドイツ人の女の子二人組でした。
「宿に誰もいないから宿泊客を探してたの」と彼女たち。
思わず笑ってしまいましたが私も話し相手が欲しかったので、彼女たちのバズバスが来るまでの間、雑談をしていました。
どうやら彼女たち、あの強風の中、サーフィン体験レッスンを受けていたようです。すごい根性です。
そして、私は一人で夜を明かし、早朝のバズバスで再びケープタウンに戻ります。車窓には行きと同じく雄大な景色が流れています。そして、降りる旅人もいれば乗る旅人もいる。景色と人の移ろいを横目に、私は永遠と続かないこの旅をそっと噛み締めるのでした。
そんなバズバスはまるで人生の縮図のように思えるのです。